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(ポッドキャスト 対話形式)
空港のロビーを見渡すと、二種類の旅行者がいることに気づきます。
一人は、自分の体重ほどもありそうな大きなスーツケースと格闘し、すでに疲れた顔をしている人。もう一人は、小さなキャリーケースひとつを軽やかに引き、コーヒー片手に颯爽と歩いている人。
パイロットという職業柄、私は月の半分を家以外の場所で過ごします。ステイ先は国内の温泉地から、真冬の北欧、灼熱の東南アジアまで様々。そんな生活を何年も続けるうちに、私はある一つの結論に達しました。
「旅の荷物の重さは、心の不安の重さと比例する」
荷物が重いと、移動だけで体力を奪われます。階段を見ただけでため息が出ます。お土産を買うスペースもありません。何より、「荷物を失くしたらどうしよう」「中身が壊れたらどうしよう」という心配が、旅の楽しさを半減させてしまうんです。
今日は、私がフライト生活の中で培ってきた、「荷物を減らして、旅を最高に楽しむためのパッキング術」をお話しします。厳しい訓練の話ではありません。誰でも次の旅から実践できる、身軽になるためのヒントです。

第1章:なぜ、パイロットは「機内持ち込み」にこだわるのか
まず、大前提として私のプライベートな旅のルールをお伝えします。
それは、「どんな長旅でも、機内持ち込みサイズ(35L〜40L程度)に収める」ということです。
1週間でも、1ヶ月でも、サイズは変えません。「えっ、そんなの無理!」と思われるかもしれませんね。でも、これにはちゃんと理由があるんです。
1. ロストバゲージのリスクをゼロにする
預け入れた荷物が出てこない、あるいは別の国に行ってしまった。これは旅における最大の悪夢の一つです。
荷物を預けなければ、このリスクは完全にゼロになります。空港に着いた瞬間から、あなたは自由です。ターンテーブルの前で30分も待つ必要はありません。
2. 「移動力」こそが旅の質を変える
石畳のヨーロッパの路地、エレベーターのない古いホテル、乗り継ぎ時間が短い列車。荷物が小さければ、これらを苦もなくクリアできます。
「荷物が重いから、あそこの観光スポットは諦めよう」
そう思った瞬間、旅の可能性は閉ざされてしまいます。フットワークを軽くすることは、出会いの数を増やすことなんです。
第2章:服選びは「制服」のようにシステム化する
荷物の大半を占めるのは「衣類」です。ここを制する者が、パッキングを制します。
私たち乗務員が制服を着回すように、旅のワードローブも「システム化」してしまいましょう。
1. 「3日分」をローテーションする
1週間の旅だからといって、7日分の服を持っていく必要はありません。必要なのは「3日分(着ている服+予備2日分)」だけです。
- 1日目:着る
- 2日目:予備Aを着る(1日目の服を休ませる)
- 3日目:予備Bを着る
このローテーションです。4日目以降はどうするか?現地で洗濯します。
ホテルのランドリーサービスを使うのも手ですが、私はお風呂に入ったついでに手洗いしたり、コインランドリーを使ったりします。
「洗濯なんて面倒」と思うかもしれませんが、重い荷物を運ぶ労力に比べれば、洗濯機を回して近くのカフェで本を読む時間は、むしろ豊かな休息になりますよ。
2. 色を「3色」に絞る
おしゃれも楽しみたいですよね。だからこそ、色は厳選します。おすすめは「ベースカラー2色 + 差し色1色」です。
例えば、「ネイビー・グレー・白」。これなら、どのトップスとボトムスを組み合わせても違和感がありません。暗闇の中で適当に掴んで着ても、それなりに見える。これがシステム化です。
派手な柄物や、「このスカートにはこの靴しか合わない」という組み合わせが限定されるアイテムは、思い切って自宅待機させましょう。
3. 素材は「メリノウール」が最強
アウトドア界では常識ですが、旅人にとっても「メリノウール」は魔法の素材です。
- 夏は涼しく、冬は暖かい
- 汗をかいても臭わない(防臭効果がすごい)
- すぐ乾く
- シワになりにくい
メリノウールのTシャツなら、極端な話、3日間着続けても臭いません(もちろん洗いますが、それくらい安心感があります)。
コットンのTシャツを5枚持つより、メリノウールのTシャツを2枚持つ方が、快適で荷物も半分になります。
第3章:最大の敵「もしもオバケ」を退治する
パッキングをしていると、耳元で悪魔がささやきます。
「もし雨が降ったらどうする?」 「もしフォーマルなレストランに行くことになったら?」 「もし服が破れたら?」 「もし読みたかった本が読み終わってしまったら?」
これが「もしもオバケ」です。このオバケの言うことを全て聞いていると、荷物は無限に増えます。
「もしも」の9割は現地で解決する
日本国内はもちろん、海外でも、人が住んでいる場所なら大抵のものは手に入ります。
雨が降ったら傘を買えばいい(その傘がお土産になります)。服が足りなくなったら現地でTシャツを買えばいい(それも素敵な思い出になります)。
薬やコンタクトレンズなど「生命・健康に関わるもの」以外は、現地調達を基本ルールにしましょう。
「足りないことを楽しむ」くらいの余裕が、旅を面白くしてくれます。
第4章:コックピットのような「ガジェット&小物」整理術
コックピットでは、必要なものが手の届く範囲に、定位置に置かれています。小物類も同じです。
1. 液体物は「試供品」か「詰め替え」で
普段使っているシャンプーのボトルをそのまま持っていくのはNGです。無印良品などの小分けボトルに移し替えるか、家に溜まっている試供品をここぞとばかりに使いましょう。
使い切って捨てて帰れるものは、帰りの荷物を軽くしてくれます。
2. ケーブル類は「1本化」を目指す
スマホ、PC、カメラ、イヤホン…。充電器がかさばっていませんか?
今は「GaN(窒化ガリウム)」という技術を使った、非常に小さくて高出力な充電器があります。USB-Cポートが2〜3個ついた小型の急速充電器が一つあれば、PCもスマホも同時に充電できます。
ケーブルも、片側がLightning、片側がUSB-Cなどに変換できるマルチケーブルを使えば、本数を減らせます。
3. ポーチは「中身が見える」ものを
何が入っているかわからない黒いポーチは、探し物の時間を増やします。メッシュ素材や透明なポーチを使いましょう。
「洗面用具セット」「充電セット」のようにカテゴリーごとに分け、ポーチを取り出せばすぐに使えるようにしておきます。
第5章:パッキングは「テトリス」ではない
いよいよバッグに詰める段階です。多くの人は、隙間なくギチギチに詰め込む「テトリス」をしようとします。
でも、私のやり方は少し違います。
「行きの荷物は、バッグの容量の7割まで」
これが鉄則です。
出発の時点でパンパンのバッグは、旅先で増えたパンフレット一枚すら許容してくれません。また、保安検査場でPCを取り出すたびに、中身が爆発することになります。
3割の「余白」を残すこと。これが心の余裕に直結します。
服は「畳む」より「丸める」
米軍などでも採用されている「レンジャーロール」という畳み方をご存知でしょうか?Tシャツなどをくるくると海苔巻きのように小さく丸める方法です。
これだとシワになりにくく、バッグの隙間にスポッと収まります。さらに、それらを「パッキングキューブ(衣類圧縮袋)」に入れます。
バッグの中が「服の地層」になるのではなく、「ブロック」になるイメージです。
第6章:パイロットの最終チェックリスト
さあ、荷造りが終わりました。ファスナーを閉める前に、最終チェックを行います。
一度、バッグに入れたものを全て床に並べてみてください。そして、一つ一つのアイテムにこう問いかけます。
「これは、今回の旅に絶対に必要か?」
- 「不安だから」入れたものはありませんか?
- 「一回しか使わない」ものはありませんか?
- 「誰かから借りられる」ものはありませんか?
ここでもう一度、アイテムを減らす勇気を持ちましょう。迷ったら、置いていく。それが正解です。
エピローグ:軽い荷物で、遠くへ行こう
パッキング技術とは、単に荷物を小さくするテクニックではありません。それは、自分にとって「本当に大切なものは何か」を選び取る作業です。
荷物を減らした分、あなたの視界は広がります。重い荷物に気を取られていた時には気づかなかった、道端の小さな花や、現地の人の笑顔に気づけるようになります。
フットワークが軽くなり、予定になかった素敵な路地裏へ迷い込むことができます。
次回の旅は、いつもより一回り小さなバッグで出かけてみませんか?空港のゲートをくぐる時、その背中の軽さに、きっと驚くはずです。
Have a nice trip!